目次
- 診療案内
- おしりの基本
- 内痔核
- ALTA療法(いぼ痔注射) アニメ動画あり
- 痔核根治手術(切る手術) アニメ動画あり
- 急性裂肛 アニメ動画あり
- 慢性裂肛 アニメ動画あり
- 痔瘻・肛門周囲膿瘍
- 痔瘻手術 開放術式(レイ・オープン) アニメ動画あり
- 痔瘻手術 シートン法 アニメ動画あり
診療時間 (月曜日〜金曜日)
午前 9:00-12:00
午後 3:30-6:30
休診日:土・日・祝
(このほかに年末年始、お盆、学会休診があります。HPでお知らせします)
診療科目
肛門外科 (痔の日帰り手術・肛門の健康相談)
消化器外科 (消化器病診療・負担の少ない肛門病診療)
内視鏡外科 (経鼻胃カメラ・大腸カメラ・ポリープ切除)
初診の方へ
予約は不要です。かかりつけ医の紹介状をお持ちの方はお出しください。お薬手帳、検査結果、ドック結果票などがあれば持参してください。サプリメント使用の方はその情報もあるとより良いでしょう。生理中でも問題なく受診できます。
おしりの基本
健康なおしりの断面図を見てみましょう。直腸、内肛門括約筋、外肛門括約筋、肛門クッション、歯状線(しじょうせん)などの位置関係を整理してくださいね。
肛門挙筋(きょきん)、恥骨直腸筋によって肛門がぶらさげるかのように支えられているのが分かります。これだけでおしりを支えるのには、無理があるのが、なんとなくわかることでしょう。年を取ると肛門が下がって来て、筋肉がゆるむのはそのためです。おしりの病気は進化の代償?なのかもしれません。ヒトは両手を使うようになったことで、脳が発達しましたが、その一方で肛門が胴体の一番下に来てしまい、それがヒトを悩ます、肛門疾患の原因の一つとなったのです。
実はまだ、おしりは「進化が足らない?!」のです。
内痔核(いぼ痔)の程度について
内痔核の程度は世界的にゴリガー(Goligher)分類を用いています。(I, II, III, IV度と記載することもあります)
1度:脱出はなく、出血のみ。軟膏、坐薬治療。出血が止まらない場合は、ジオン注による硬化療法(ALTA)が有効。
2度:脱出するが自然に戻る。軟膏、坐薬治療で維持療法。不快感が解消されない場合は、ALTAやゴム輪結紮療法(RBL)。
3度:毎回手で戻す。手術治療が基本。内痔核のみの場合ALTAが適応。外痔核が大きいなどの場合は結紮切除術(LE)。外痔核切除+ALTAなどの方法も有効。
4度:常に脱出。手術による結紮切除術(LE)が基本。
ALTA療法(四段階注射法)
脱出・出血の痔核に行う四段階注射法の概念図です。各痔核について1-2-3-4段階で注射を行います。注射部位を退縮させることで、脱出がなくなります。痛そうですって?注射を打つ部位は大腸の壁になりますから、痛みはありません。ただそこまで注射器を持ち込むために、筋肉を弛緩させる麻酔が必要になります。また1, 2, 4段階は痛みのでるギリギリのところに注射を打ちますので、痛みにならないギリギリの「押されるような感覚」があります。(局所麻酔の場合です)
痔核根治手術・結紮切除術 (LE)
結紮切除術 (LE)の治り方
おしりの麻酔 疼痛緩和の工夫
肛門の右と左に麻酔の注射をするときに、あらかじめ保冷剤を入れたナルゲンボトルにて1分程度冷却することで痛みを軽減しています。これは当院での臨床研究で証明されたもので、現在各地の肛門科で手術の際に応用されています。当該論文はこちら。2013年の論文です。
急性裂肛
慢性裂肛
痔瘻・肛門周囲膿瘍
痔瘻・肛門周囲膿瘍について、発症から治療まで時間経過を追って解説します。
(1) 感染の成立
下痢気味の男性に多くみられます。肛門腺への便汁(細菌)の流入があり、内肛門括約筋と外肛門括約筋の間へ感染が起こります。「肛門腺」はまだよく分かっていないのですが、図のように内肛門括約筋を貫く場合があり、そのような肛門腺が感染を起こすと言われています。
(2) 膿瘍形成
内外括約筋の間にうみ(膿)がたまった状態です。おしりの周りがひどく腫れて、寝られないと言われます。痛みがひどく、まっすぐに座れません。38度を越える熱がでることもあります。放っておくと命に関わる大変なこと(敗血症・フルニエ症候群など)になることもあります。すぐに肛門科へ受診してください。
(3) 膿瘍の進展
肛門周囲膿瘍をがまんしていますと、色々な方向へ進展します。Aの方向へ自潰すると、膿(うみ)がどっと出て楽になります。Bへ破れるとこれも楽になりますが、管の長い痔瘻になります。Cへ進展すると坐骨直腸窩(ざこつちょくちょうか)痔瘻(III型痔瘻)となり、肛門の外側を回る痔瘻へと進みます。Dへ向かって内外括約筋の間を上に上がると、高位筋間痔瘻(IIH型痔瘻)になります。更にE(C経由でEへ進展するものもあり)へ進むと骨盤直腸窩(こつばんちょくちょうか)痔瘻(IV型痔瘻)に。Fのように直腸側へ破れることもあります。
肛門科救急である肛門周囲膿瘍に対しては、適切な切開排膿手術が必要です。切開排膿によって痔瘻化させるのです。治りやすい、手術しやすい形の痔瘻にしなくてはなりません。肛門の後方、側方、前方によっても違ってきます。切開ひとつにしても、技術の差が出るものなのです。
(4) 高位筋間膿瘍 (IIHA)
肛門周囲膿瘍でも、外から見て腫れていればどんな外科医でも切開することができます(どこを切開するかで、うまい下手はありますが)。むずかしいのがこういうタイプです。患者さんは痛くてたまらない、採血すると炎症反応があるものの、どこに膿(うみ)があるか分からない。で、抗生物質の投与だけで経過観察、というつらい経過をたどります。この、高位筋間膿瘍の場合は、直腸内に指をいれて薄い筋肉を触れながら内肛門括約筋と外肛門括約筋の間に細いメスを進めて行きます。切開排膿が成功すれば楽になるのは同じです。指先の感覚だけをたよりにメスを進めるのは、かなりドキドキものでありますが、そのときの気分はといえば、「いまやらねば、いつできる、わしがやらねば、だれがやる」という感じです。これは彫刻家、平櫛田中(ひらくし・でんちゅう)の言葉です。国立劇場に展示されている「鏡獅子」が有名です。小平市平櫛田中彫刻美術館、田中美術館(岡山県井原市)にくわしい説明があります。「いまやらねば」とは、今、生きていることであり、「わしがやらねば」というのは、相当な「誇り」であると、最近になって分かった次第。以上、高尚な解釈。手術台では、「わしが切らねば、誰にも治せん!」という位の意気込みです。
(5) 痔瘻の形成
肛門周囲膿瘍の広がり具合で、痔瘻の形が決まります。図のように一次口(いちじこう)からそれぞれA,B,C,Dへの痔瘻になります。ここでは、比較的多く見られるもののみを記載しています。A,Bへの痔瘻は低位筋間痔瘻(IIL)、Cへの痔瘻は坐骨直腸窩痔瘻(III)、Dへの痔瘻は高位筋間痔瘻(IIH)といわれ、またそれぞれのタイプに単純なものと複雑に枝分かれするものとがあり、さらにこれらのタイプの複数の組み合わせがあり、さらに更に肛門周囲を三次元的に広がるものがあり、とても平面図では図示できないものもあります。(図は単純化してありますので、正確には肛門のどの位置かで異なります)
(6) 痔瘻の治療:低位筋間痔瘻の開放術式
痔瘻の治療について説明します。ここでは最も多い低位筋間痔瘻(IILS)の開放術式を示します。開放術式とは、痔瘻の「膿(うみ)のトンネル」を切り開き、文字通り開放する方法です。痔瘻治療の基本です。歯状線(しじょうせん)近くの膿の入り口(一次口)から、皮膚の出口(二次口)までを切開します。この際切除する筋肉の種類や位置、方向などに十分な配慮が必要です。一般に肛門後方だと筋肉の切除量が少なく、肛門機能への影響が少ないです。開放した傷は縫いません。自然に新しい皮膚が張るように傷を作ります。術後1か月から2か月くらいで皮膚が出来て治癒します。根治度(完全に治る程度)が高いので、よく用いられている方法ですが、肛門側方や前方の場合は手加減が重要です。
(7) 開放術式写真
低位筋間痔瘻に対する開放術式(Lay Open レイ・オープン)の術前術後写真を示します。腹這いですので、画面の上が患者さんの背中側となります。左の写真が術前で、肛門の右上に膿(うみ)の出る穴(=二次口)があります。肛門部からそこまで切り開き、さらに右の写真の様に、幅広く創を作ります。真後ろの傷は治りにくいので、斜め方向へずらしてあります。この創はあまり小さすぎると早く引きつれて治ってしまいますし、大きすぎると皮がはるの(=上皮化)に時間がかかります。ちょうど良い大きさにするのが、腕の見せ所であります。創の治りやすさは人によって違いますので、むずかしいところです。創部には次没食子酸ビスマスを塗布して、痛みと出血、そしてかゆみを防止します。2016年に論文発表しています。(手術写真は患者さんの了解を得て掲載しています)
開放術アニメ動画
(8) 痔瘻の治療:シートン法
肛門の側方、前方の痔瘻の場合に行われるシートン法について説明します。肛門の後方でも、括約筋を切りたくない場合にも行います。肛門内の一次口から二次口までアラビアゴムやシリコンチューブを通し、輪にする方法です。シリコンの場合は内部の汚れ物質を外に出す(ドレナージといいます)ために使います。アラビアゴムの場合はそれに加えて、ゴムの自然な特性を生かして、徐々に傷をきれいにしつつ、次第にゴムが体から吐き出されて行くため、輪にした内部がゆっくりと切れて行きます。括約筋の部分もゴムでゆっくり通過する形で切るため、「切ったのにつながっている」状態になるため、括約筋がゆるむのを最小限にできます。ゴムのしめ方で切るスピードを調整します。全部をゴムで切ることもできますが、時間がかかる(数ヶ月以上)ため、かんじんな筋肉のところが切れて、皮膚だけになった段階で開放術式の様に切ってゴムをはずすことが多いです。
繰り返しますが、シートンのゴムは強くしばらなくても、徐々に体外に排出されていくため、少しずつ気づかない間に切れて行きます。そのまま放っておいても自然に「切れて」線状の傷となり、ゴムは輪のままで排出されます。
また当院では、二次口から内括約筋までの瘻管組織はあらかじめくり抜く「くり抜きシートン法」を行うことが多いです。